いまどき島根の歴史

第40話 笹巻きの季節 

浅沼政誌 主任研究員

(2022年7月19日投稿)

 今年は例年になく早い梅雨明けとなりましたが、梅雨の時季は、天候が安定しない日が続き、毎日天気が気になります。この時季に島根では、端午の節句が月遅れの6月5日に行われます。

 端午の節句では、鯉幟《こいのぼり》や武者幟が揚《あ》げられたり、川に数百もの鯉幟が渡されてたなびくなど、季節の風物詩となっています。また、あまり聞かなくなりましたが、菖蒲《しょうぶ》湯に入って邪気をはらう、あるいは菖蒲やヨモギを家の軒下に吊すなどの習俗が見られます。

 ところで、端午の節句の時季になると食べられる食べ物をご存知でしょうか。そう、チマキですね。一般的にはチマキと呼ばれますが、島根県においては、出雲地域の多くは「笹《ささ》巻き」、石見地域では「巻き」と呼びます。「笹巻き」は、文字どおり笹を使ってだんごを巻いたものです。「巻き」は、蔓《つる》に棘《とげ》があるサルトリイバラの葉を使って餡《あん》入りのだんごを包んだもので、出雲地域の一部と隠岐地域では両方が伝えられます(図1)。

(図1)五月節句の団子 1966(昭和41)年度調査(島根県教育委員会『改訂増補 島根県民俗分布図』1975年より抜粋・加筆)

 笹巻きは端午の節句をはじめ、泥落としや代満《しろみ》て、半夏《はんげ》の際にも食べられました。泥落としは田植えが終了し、泥を落として休むことを、代満ても田植え仕事が終了したことを意味します。また、半夏は夏至から数えて11日目の日を指し、この日までに田植えを終えなければ収量が半分になるといわれていました。こうした稲作作業の節目にも関わるなど、行事食・季節食として親しまれています。

 笹を巻く流儀は、各家庭や地域によって異なり、統一された巻き方というものはありません。製粉会社やJAなどのウェブサイトで笹巻きのレシピも紹介されていますが、そもそも巻き方がどれほどあるのかは不明です。

 ここでは、二つの笹巻きの事例を紹介しておきます。写真1は松江市内A家の笹巻きです。上部を見ると、笹の茎が角のように横に飛び出させて巻いてあり、根元は藁《わら》で縛ってあります。写真2は雲南市内B家の笹巻きで、上部を見ると、笹の茎を曲げて笹に巻き込んであり、根元はい草で縛られています。

(写真1)松江市内A家の笹巻き
(写真2)雲南市内B家の笹巻き

 こうした笹巻きを作る知識や技術は、各家庭や地域に深く根付いてきた歴史であり文化です。しかしながら、手間がかかることや、独居老人世帯の増加などにより、次世代への伝承機会が急速に失われています。わが家の、わが地域の笹巻きについて、情報をお寄せください。