研究員の日記

風土記登場地の調査 出雲郡編

2024年6月8日の日記  今福拓哉 主任研究員

『出雲国風土記』は、(1)国の総括的記述、(2)各郡別の記述、(3)道、駅家、軍団・烽(とぶひ)、戌(まもり)などの国の特別記述の三つの項目から構成されています。そのうち、(2)は、天平5(733)年当時、出雲国を構成していた9郡(意宇・島根・秋鹿・楯縫・出雲・神門・飯石・仁多・大原)の記載で、郡ごとに、郷・里の統計、郷・里名の改否、郡名の由来、郡家(役所)から各郷・里への距離、正倉の所在、寺院、神社、山・川・池・島、産物、郡家から郡境界までの距離が詳しく記載されています。

今回、これらの記載のうち、出雲郡の海岸地形として登場する島および海産物について、現地調査してきました。※もちろん休暇での調査です。

出雲郡の海岸地形については、名称とその規模について詳細に記されており、そのうちの「山埼」は「高さ三十九丈、周りは一里二百五十歩ある。(椎・楠・椿・松がある)。」と記載されています。山埼は出雲市大社町宇龍の権現島と推定されており、現在も当時の姿からほぼ変わらずに残っており、奈良時代の風景を味わうことができます。

権現島遠景

また、北海でとれるさまざまな産物は、鮐(ふぐ)・沙魚(さめ)・佐波(さば)・烏賊(いか)・鮑魚(あわび)・螺(さざえ)・貽貝(いがい)・蚌(うむぎ※ハマグリ)・甲贏(かせ※ウニ)・螺子(にし※巻貝)・石華(せ※カメノテ)・蠣子(かき)・海藻・海松(みる)・紫菜(のり)・凝海菜(こるもは※テングサ)で、楯縫郡や秋鹿郡と同じですが、鮑は出雲郡がもっとも優れているとの記述があります。

これらの産物のうち、魚類の生息調査を実施しました。

※調査時にはライフジャケットの装着など安全対策はしっかりとしています。

※休暇での調査です。

以下、釣果です。

キジハタ
カサゴ
クロアイ
調査終了

以上のように、風土記記載のさまざまな産物を実際に捕獲することはできませんでした。ただし、釣れた魚は現在では高級魚として認識されるなど、食用として人気があります。なお、調査で確認した魚が当時にはいなかったわけでもありません。風土記は冒頭で「魚介類や海藻類は数が多いから、全ては書き切れない」と宣言しており、当時の社会にとって価値のある種から順次記載したことで、調査でとった魚種は記載されなかったことが想定されます。つまり、奈良時代の海産物各種の価値と現在の海産物の価値が異なることを表していると考えられるのです。

引き続き、風土記登場地の調査を進めていきますので、次回もよろしくお願いします。