研究員の日記

「須我乃非社」を訪ねて―『風土記』社 ぶらぶらある記(その2)―

2025年1月20日の日記  野々村安浩 特任研究員

島根県内の出雲地域には、『出雲国風土記』(以下、『風土記』)神社名を継承する神社があり、今でもその地域の人々に祭られています。『風土記』を紐解き、今回はそのうちの一つ神社がどのような景観の中にあるのか、雪が少なかった1月に関連する地域もめぐってみました。

奥出雲町三成から雲南市に向かい県道25号(主要地方道 玉湯吾妻山線)【写真1】を北上し、三所(みところ)川に架かる馬場ヶ峠橋【写真2】を渡り、奥出雲交通佐白(さじろ)線の停留所「三所分かれ」【写真3】を右折した後【写真4】、下三所農道を進むと「上三所(亀嵩)」のサインがあります【写真5】。そこを進むと「城山公園登山口」の看板【写真6】、その傍にはかつて島根県文化財課が設置した「出雲国風土記登場地」がありました。そこには「菅火野 須我乃非社(現在はなし)」と記されています【写真7】。  この「菅火野(すがひの)」と「須我乃非社(すがのひのやしろ)」は、ともに『出雲国風土記』仁多郡の項目に記されている地名、社名です。

写真1
写真2
写真3
写真4
写真5
写真6
写真7

今回は「菅火野」「須我乃非社」について関係する地域をめぐってみました。

前述の「城山公園登山口」を進むと、山頂の「城山公園」に着きますが、一月のこの時期のため、今回は雪が残っており断念。山頂までアスファルト舗装がされ、道幅は狭いが車で行けるとのことで、季節を改めて訪ねてみたいところです。

この山は標高578mで「城山」と呼ばれ、山頂にはテレビの中継塔などが立っています。そのため、遺構などは大きく改変を受けていますが、中世のこの地域の有力者であった三沢氏の出城の「須我非山城跡」とされているようです(高屋茂男編『隠岐の山城 続出雲の山城』2024年、ハーベスト出版)。 またこの山は、県道25号線の馬場ヶ峠橋から東に、電波塔が立つ山を望むことができます【写真8】。

写真8

『出雲国風土記』仁多郡の「菅火野」条には「峯に神社あり」とあるが、現在では存在しません。江戸時代の地誌『雲陽誌』仁多郡上三所にも、「古城 菅火山といふ(略)里俗日光山といふ、【風土記】に載る須我乃非社斯山上にあり、今は祠なし」とあります。  

ところで、この城山の南麓の奥出雲町三所の角木【つのぎ】のT字路【写真9】にある「角木公会堂 角木生活改善センター」【写真10】から北に、電波塔などが立つ「城山」を望むことができます【写真11】。左手の人家の向こうに、こんもりとした森がみえます。この森の中に現在の須賀非神社が鎮座しています【写真12】

写真9
写真10
写真11
写真12

2017年10月にこの地を訪ねた時はたまたま社殿の修造中で【写真13・14】、ご神体等は鳥居に向かって右手ある拝殿に遷座されていました。

写真13
写真14

現在の社殿は鳥居の向かって、左が「須賀非神社」、右が「天照神社」です【写真15】。鳥居には「文久元年辛酉九月吉日」の銘が読めます【写真16】。文久元年は西暦1861年。

写真15
写真16

ところで、奥出雲町三成字宮山の八幡宮【写真17・18・19】は、島根県神社庁編『神國島根』(1981年)をみると、境外神社の項目に「須我非神社」が記されています。さらに『仁多町誌』(1996年、仁多町)の、この八幡宮の沿革には「明治40年(1907)10月3日に(略)角木鎮座の須我非神社を合祀した」とあります。  

これらのことから、現在の角木の「須賀非神社」は三成の八幡宮の境外神社となるのでしょう。

写真17
写真18
写真19

また、奥出雲町郡(こおり)に大領神社があります。廃校になった元奥出雲町高田小学校の校門から郡地域を望みました【写真20】。この集落の左手の小山の向こうに神社は鎮座し【写真21】、境内の手水の石には「寛政十一年」(1799年)の銘がみえます【写真22】。なお、この郡地域は、奈良時代の仁多郡家の推定地です。

写真20
写真21
写真22

この大領神社には「高田寺根元録【たかだじごんげんろく】」(慶長元年(1596)高田寺住職快乗による古記録集)が伝わっています。それには、『出雲国風土記』の須我乃非社を仁多郡大領蝮部臣(たじひべのおみ)が郡家鬼門の鎮守神として現社地の北方の地に遷したもの、と記されています(『島根県大百科事典 下巻』1982年、山陰中央新報社)。とすると、「須我乃非社」に大領神社も関連しそうに思えます。

今回は奥出雲町の郡や三所、三成などをめぐり、各神社の歴史をその地域の景観とともに知ることができました。

また、季節がいい初夏に、ほかの地域の『風土記』神社名を継承する神社をさらに訪ねて、そこでの新たな発見が楽しみです。