「島根県民俗芸能調査」が二年目を迎えました
2025年4月13日の日記 石山祥子 専門研究
島根県には神楽や獅子舞など、県内全域で多種多様な芸能が地域の人びとによって継承されています。
その多くは神社の祭りで奉納されたり、地域のお祝い事などの場で披露されたりしています。このような芸能は「民俗芸能」と呼ばれることが一般的ですが、県内でどれくらいの数や種類の民俗芸能が行われているのかを把握する調査は、長らく行われていませんでした。
そこで、古代文化センターでは昨年度(令和6年度)から3年の予定で、国からの補助金も活用して、県内の民俗芸能の現状を調査する「島根県民俗芸能調査」を開始しました。
この調査については、以前に『山陰中央新報』内のコラム「いまどき島根の歴史」でも紹介し、当センターのホームページからも閲覧できます。(第128話 民俗芸能は変わらない? | 島根県古代文化センター)
調査は今年4月で2年目に突入し、今年度は昨年度までの調査成果を踏まえ、県内各地の民俗芸能を30件ほど選定して、現地での調査を行っています。4月に入り、早速2件の調査に出掛けましたので、今回はその概要を簡単にご紹介したいと思います。
1件目は4月12・13日に浜田市日脚(ひなし)町の日脚八幡宮で行われた「藁蛇(わらじゃ)神事」です。藁で作られた蛇を用いる神事は県内各地で見られますが、日脚町は海に面し、豊漁や航海の安全などを祈願して行われる神事という点に特徴があります。また、この神事を中心になって執り行うのが神職や神社の氏子組織ではなく、「船持(ふなもち)組合」という地元の船主による組織であることも非常に珍しい点です。船持組合によって作られる全長約5mの藁蛇は、画像のように10名くらいで持ち、奏楽に合わせて縦横無尽に動きます。翌日、藁蛇は町内を練り歩いた後、エビス山と呼ばれる小高い山に安置されます。 県内でも稀な事例でありながら、まとまった調査報告がこれまであまりなかったため、今回の調査対象として取り上げました。

2件目は4月13日に雲南市加茂町立原の須美禰(すみね)神社で行われた「柴草(しばくさ)神事」です。
1件目の「藁蛇神事」と日にちが被っているじゃないかと思われた方もいるかもしれません。この時期はちょうど春祭りシーズン真っ只中だったため、筆者は「藁蛇神事」は1日目だけ拝見して、後は同僚に引き継ぎ、雲南市の方に移動しました。
その雲南市の「柴草神事」は神社の宮司さんと立原地区の方々とが一緒になって行う神事です。当日はあいにくの雨模様でしたが、神事が始まる午前11時頃にはほぼ雨も止み、予定通り神事が行われました。
柴草神事は地区が凶作に見舞われた際、裏山の柴を刈り取り、肥料として耕作をしたところ作物が穫れるようになったという言い伝えにちなんだ神事で、史料によると18世紀にはすでに行われていたようです。現在も神社の裏山から刈り取ってきた柴が神事に用いられます。
現在の神事は大きく二つの内容に分かれます。最初に、木製の小さなクワを持った地元の方々が神社の壁面を叩きながら、神社の周りを3周します。その後、社殿の中で柴の葉を掛け合います。柴の葉を掛け合う前には、神事歌と呼ばれる、米作りの様子を歌詞にした歌を歌います。


今回調査を行った神事はどちらも県内にあまり類例のない事例として、芸能的な部分だけでなく、神事全体についても今後調査を進めて行きたいと思います。それぞれの神事の詳細については、令和8年度末に刊行予定の調査報告書でまとめられる予定です。