研究員の日記

鋳物と鋳物師の研究をはじめました

2022年7月1日の日記 土橋由奈 特任研究員

皆様初めまして。この4月から特任研究員として着任しました、土橋由奈と申します。大学では、日本の近代仏教史を研究していました。

ご挨拶申し遅れまして、もうすっかり夏ですが…どうぞよろしくお願いします(^O^)

今回は、私が今取り組んでいる研究について、少しお話したいと思います。

私が担当しているのは、今年度から始まりました、テーマ研究「鋳物と鋳物師の研究」です。

島根県にある鋳造遺跡の調査や、梵鐘の銘文、中世~近代の鋳物師に関わる史料の分析などを中心に進めています。

私は近代担当で、今は、松江で銅製鋳物を製作していた遠所(えんじょ)家についていろいろと調べています。

同家の詳しい来歴はまだまだ不明ですが、松江藩の鋳物専売部門であった()甑方(そうかた)で鋳造技術を習得し、鋳物生産をはじめたようです。明治時代の訪れとともに釜甑方が廃止され民間に払い下げられた際に、その鋳銅部門を遠所家が引き継ぎ、遠所鋳造所が営まれました。

遠所家の作品は、茶釜から銅像、橋の擬宝珠など多種多様ですが、特に美術鋳物を得意としています。初代遠所長太郎(1850 -1921)以降はさらに芸術性を高めていき、同家の作品は「遠長」ものと呼ばれるようになります。

2000(平成12)年に廃業した後、遠所家で使用された道具類や記録などの資史料は松江歴史館に寄贈され、整理・保管されています。

現在私は、松江歴史館から資料の台帳やリストをご提供いただき、少しずつ現品をお借りしながら分析を進めているところです。 先日も、資料借用のため松江歴史館に伺いました。今回お借りしたのは、作品の図案・下絵・設計図や、県内外で製作依頼を受けた際に集められた資料などです。

史料について説明を受けました。写真に映っているのは、松江大橋の擬宝珠の設計図です。こんな感じで、封筒の中に下絵や設計図がたくさん入っています。

今回お借りしたのは一部とはいえ、ダンボール5箱分!歴史館の方に手伝っていただきながら、流れ作業で車へ積み込みました。ゲージや金具など、モノの資料もいくつかあったので、意外とずっしり重かったです。

何だかニヤけていますね。マスクの下は笑顔です。

お借りした資料を見ていると、美術作品が多いのはもちろん、仕事の幅広さに驚きます。

資史料から分かる範囲では……

・島根県民会館の銘板

・松江大橋・亀田橋・天神橋等々の擬宝珠

・荒神谷遺跡出土品の複製制作

などなど、その他たくさんの制作依頼を受けていたようです。当時、遠所家の鋳造が地域にとって必要な存在であったことがうかがえます。

私の専門分野は思想史で、こういった生産・ものづくりに関わる研究をするのは今回が初めてです。思想史とは違い、実際の「もの」を見たり触れたりする機会が多く、そこに魅力を感じます。五感が動いてとても新鮮です。特に視覚!作品の絵や図などは、見るだけで惚れ惚れしてしまいます。

こんな感じでまだまだ駆け出し研究員ですが、良い成果を出していけるように頑張ります!

「鋳物と鋳物師の研究」、今後の活動もぜひお楽しみに(^^)