第55話 誕生から七五三まで
浅沼政誌 主任研究員
(2022年11月1日投稿)
毎年11月になると、きれいに着飾った幼児連れの家族が、神社にお参りしている姿を見かけるようになりますね。そう、11月は「七五三」の時期です。一般には、11月15日が「七五三」の日ですが、実際には11月15日近辺の休日に行われています。
「七五三」は関東地方で行われていた3歳・5歳・7歳の年齢ごとの行事を、商業者が「七五三」という名称にして流布したもので、明治以降に全国に広まったと言われています。3歳・5歳・7歳の時に必ず祝いごとをするように思われがちですが、地域や男女によって異なる年齢で行われた行事を「七五三」と銘打っていますので、そのようなことはありません。
この行事の本来の目的は、それまで付け紐《ひも》であった幼児の着物を、大人と同じ作りの着物に変え、帯《おび》をしめ始める年齢となったことを祝うものです。つまり、大人への仲間入りの一歩を祝い、また、神社に参拝するのは、氏子となって社会の一員として認められることを意味していました。
島根県では「紐落とし」あるいは「帯なおし」という名称でよく知られており、前述のように、付け紐から帯に変えることに由来すると言われています。男女とも満3歳(数え年4歳)で行われることが大半ですが、石見西部では満2歳(数え年3歳)で行われる地域もあるようです。
いずれも、この後、5歳・7歳での行事は行われていません。したがって、「七五三」の名称は定着してはいるものの、実際には3歳の行事のみが見られ、「七五三」は行われていないことになります。
ところで私たちは、この世に誕生してから3歳の「紐落とし」までの3年間に、集中して多くの儀礼を経験します。
名前を決めて披露する生後7日目の「お七夜」、男児は生後30日目前後、女児は33日目前後に行われる「宮参り」、生後100日目の「食い初《ぞ》め」、誕生後初めての3月3日と5月5日の「初節句」、そして、満1歳の誕生日は「初誕生」と言って、一升餅を背負わせたり、物を選び取らせて将来を占ったりします。
このように儀礼が集中するのは、3歳までの乳幼児の死亡率が高かったためと言われていますが、医療技術が発達した今日においても、変わらず行事が行われています。こうした行事が商業化されて、広く根づいていることもありますが、この時期の子どもが不安定な存在であることは、昔も今も変わらないようです。