いまどき島根の歴史

第71話 米の作況を占う

浅沼政誌 主任研究員

(2023年3月21日投稿)

 米は、主食として私たちの食生活を支えてきた重要な食材です。現在は、食生活が大きく変わり、米に対する意識も、昔ほどではなくなりましたが、私たちの周りでは、稲作に関わる行事が依然として数多く受け継がれています。各地の神社で行われる田植え神事や田植え囃《ばや》しなどが、その代表例でしょう。こうした行事の中の一つに、米を使って作況や天候を占う行事があります。

 島根県内では、米の使われ方によって四つの占い方法が見られます。一つは米をお粥《かゆ》の状態にして占う「粥占《かゆうら》」、二つめは米を酒の状態にして占う「酒占」、三つめは籾《もみ》で占う「籾占」、そして、四つめは玄米の状態で占う「米占」があります。

※報告書・現地調査等により作成。祭礼月は変更になっている場合がある

 中でも「粥占」は、全国的に最も広く見られるものです。一般的には竹管を使い、中に入る粥の状況で作況が判断されるため、「管粥《くだがゆ》祭」とか「管粥神事」と呼ばれます。

 松江市鹿島町佐陀宮内にある佐太神社では、毎年2月14日から15日にかけて「管粥祭」が行われています。14日は、白米と小豆、長さ3寸(約9㌢)ほどの竹管3本が用意され、鍋に入れて小豆粥を炊き上げます。竹管には、それぞれ「早稲《わせ》」「中稲《なかて》」「晩稲《おくて》」の目印が付されています。

 翌15日は、小豆粥が詰まった竹管と小豆粥を祭壇に供えて神事が行われ、終了後、竹管はそれぞれ縦に半分に切られ、小豆粥の詰まり具合を観察して出来高が判定されます。昨年、2022年の場合は、早稲が8歩《ぶ》、中稲が8歩5厘《りん》、晩稲が7歩5厘という判定でした。この竹管と出来高が書かれた紙は掲示され、参拝者が確認して、その年の農耕の参考にしています。

小豆粥が詰まった竹管と歩合表示(佐太神社・2022年撮影、右から早稲、中稲、晩稲)

 次に多いのが「酒占」で、その多くが、土中に埋められた甕《かめ》に米と糀《こうじ》を入れて甘酒状のものを醸《かも》し、一定期間を経た後、その量の多少によって豊凶を判定します。

 また、「籾占」は、餅粥《もちがゆ》を作り、それに稲穂を浸して付き具合の多少で豊凶を判定します。そして「米占」は、保管しておいた玄米の状態を点検し、虫食いや変色、カビの具合などを見て判定します。

 島根県内では、こうした占い行事が、水田耕作が始まる前の1月から4月を中心にしてあります。占う方法は異なりますが、いずれも安定した天候と収穫を願って、毎年くり返し行われているもので、占いの結果は、米に限らず、作物全体の出来具合を判定します。私たちと米との深いつながりを示す事例です。