いまどき島根の歴史

第90話 盆行事と盆踊り

浅沼政誌 主任研究員

(2023年8月22日投稿)

 今年も皆様は、お盆を家族・親戚と過ごされたことと思います。盆は、旧暦7月15日を中心とした時期が本来の姿ですが、全国的には月遅れの新暦8月15日が中心となっています。この時期、故郷に向かう人たちで道路や交通機関が混雑するのは、おなじみの光景ですね。盆は先祖や先人の霊を祀《まつ》る行事が行われますが、第2次世界大戦の終戦日がこの日であることも重なって、広く月遅れが定着したものと思われます。

 8月1日は「地獄の釜のふたあけ」と言って盆の月が始まり、13日の「迎え盆」には「迎え火」で先祖の霊を迎え、団子やソウメンなどを供えます。15日の夜、あるいは16日の早朝には、「送り盆」と言って仏壇に供えた供物を「シャーラ舟(精霊舟)」にのせて海や川に流す「精霊送り」があり、そして、この期間中には墓参りを行うなど、先祖の霊を迎えて送るという一連の行事が広く見られます。

 こうした盆行事の一つに「盆踊り」があります。盆踊りは、盆に訪れる精霊や怨霊《おんりょう》を慰め、再び送り帰すための踊りと言われています。古くは念仏を唱えながら踊る念仏踊りが踊られていたようですが、現在に見る盆踊りは、櫓《やぐら》を囲んで、音頭取りの歌と太皷や笛などの奏楽に合わせて踊ることが一般的です。

雲南市木次町西日登(にしひのぼり)地区の盆踊り(2023年8月15日)

 島根県内では、「口説《くど》き」と呼ばれる長編の物語を七七調とか七五調で歌い続けていくものが大半で、「山くずし」「石童丸」「八百屋お七」など多くの歌が伝わっています。また、七七七五音の26文字で内容が完結する小唄形式のものもあり、「こだいじ」や「ハンヤ節」などが歌われています。2021年に島根県古代文化センターが行った調査では、島根県内225カ所で盆踊りが行われていることが確認され、こうした盆踊り歌が歌い継がれていることが分かりました。

 ところで、盆踊りの会場で、音頭取りの人が傘をさして歌う姿を見られた人はいないでしょうか。雨が降っていればなるほどと思いますが、雨も降らない晴天の夜に、傘をさすのは不思議に思われます。実は、この盆踊りの傘は傘鉾《かさぼこ》を意図していると言われます。傘鉾は、大きな傘を山車《だし》や屋台に立てたもので、京都の祇園祭が有名ですが、傘鉾には死者の魂を送る役割があると考えられています。

 そうであれば、傘をさす理由も理解できるのではないでしょうか。現在は、地域の夏祭りの一部として行われているところが大半で、供養の意味合いは薄れていますが、隠岐諸島や出雲市、浜田市、江津市などの一部地域では、新仏の供養とともに踊られています。

 今年は、新型コロナウィルス感染症の5類への移行に伴い、各地で休止されていた盆踊りの多くが再開されています。各地とも、再び今回のような感染症が起きないことを願いながら踊られたのではないでしょうか。