第128話 民俗芸能は変わらない?
石山 祥子 専門研究員
(2024年6月26日投稿)
日本各地には、神楽や盆踊りのように、決まった日時や機会に、社寺の祭りや法事などで上演される芸能があります。このような芸能は「民俗芸能」と呼ばれ、それを職業としない一般の人びとが担い手である点が特徴のひとつです。こうした芸能の中には、恒例行事としてメディアで紹介されるものもあります。県内では4月の隠岐国分寺蓮華会舞《おきこくぶんじれんげえまい》(隠岐の島町)、7月に行われる弥栄《やさか》神社の鷺舞《さぎまい》(津和野町)などが近年の定番のようです。民俗芸能は季節の風物詩として取り上げられたり、「古式ゆかしく」、「伝統」といった見出しとともに報道されたりするので、毎年同じことをしているように感じられるかもしれませんが、果たして本当に毎年変わらずに、連綿と繰り返されてきたのでしょうか。
先日、ある民俗芸能の調査中に地元の方から次のように尋ねられました。「集落の住人が減ってきて、従来通りに芸能を奉納するのが難しくなってきた。規模を縮小したいという意見も出ているが、やり方を変えるのは良くないんだろうか」と。実はこの芸能は数十年前、文化財に指定されています。質問された方は、指定を受けた当初からやり方を変えることに、不安を覚えられたのでしょう。
先ほどの問いも踏まえて、この質問に答えるなら、今まで少しの変更も加えられずに伝えられてきた芸能はほぼ存在しない。程度の差こそあれ、各時代の社会や経済状況、価値観、集落の実情などに合わせて変化するのは、民俗芸能を継承していく上で当然、ということになります。これは民俗芸能に限らず、各地で継承されている祭りや行事にも当てはまります。
一見すると「古式ゆかしい」芸能や祭り・行事であっても、その裏ではこれまで通り行うために、関係者の方が尽力し、知恵を絞って、辛うじて維持されている場合もあるのです。
さて、島根県では、1987(昭和62)年度に県内の民俗芸能などを対象とした「島根県民俗芸能調査」を実施しました。
先ほど、民俗芸能は変化を前提としながら継承されてきたと述べたばかりですが、高度経済成長期以降の社会や経済の変化の度合いは極めて速く、それまで緩やかに変化していた芸能や、それに関わる人びとの生活や考え方にも少なからぬ影響を与えました。そうした民俗芸能を取り巻く当時の社会状況に対する危機感から、この調査はなされたのです。この時収集された民俗芸能232件のデータは昭和末期の実態がわかる貴重な資料となっています。
そして、今年度から島根県では2回目の民俗芸能調査を3年間の予定で開始します。今回の調査では、島根県の民俗芸能の特色を改めて検討するとともに、前回調査から約35年の間に生じた変化についても明らかにします。また、社会変化のスピードがますます加速する中で、今後も民俗芸能が変化していくことを想定し、現時点での状況を記録することも、今回の調査の重要なポイントと言えます。
ということで、これから皆様がお住いの地域にも、調査でお邪魔するかもしれません。その際はご協力のほど、どうぞよろしくお願いします。