いまどき島根の歴史

第150話 新年を寿ぐ石見焼

 間野 大丞 センター長

(2025年1月8日投稿)

 あけましておめでとうございます。本年も、「いまどき島根の歴史」をどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、今年初めてのコラムは、松の内にふさわしい、おめでたいテーマでお届けします。2024(令和6)年、「今年の漢字」は「金」が第1位でした。オリンピック・パラリンピックでの日本選手とメジャーリーグでの大谷翔平選手の活躍のほか、政治の裏金問題、物価の高騰を理由に挙げた人が多かったそうです。

 この時期にふさわしい縁起の良い一文字といえば「寿」に決まりでしょう。寿には「おめでたいこと」や「いのちの長いこと」という意味があります。

「寿」の文字が書かれた石見焼のうつわ(島根県埋蔵文化財調査センター所蔵)

 写真は石見焼のうつわです。釉薬をかけて焼かれた広口の碗で、底には高台が付いています。そして内面には鉄釉で大きく「寿」と書かれています。

 このうつわは、萩・石見空港の建設工事に伴い発掘調査された相生《あいおい》遺跡の窯跡から出土しました。空港の建設工事では、ほかにも仁右ヱ門山《じんえもんやま》遺跡と北ヶ迫《きたがさこ》遺跡で窯跡が発掘調査されています。

 津和野藩領に属していたこの一帯は、焼き物に適した土が豊富に採取できたことから、江戸時代後期になると瓦と陶器の窯が次々と作られます。

 まず文化年間(1804~1818年)に、仁右ヱ門山遺跡で瓦生産が始まり、続く天保年間(1830~1844年)に相生遺跡で陶器、幕末の元治元年(1864年)からは北ヶ迫遺跡で瓦と陶器が生産されます。仁右ヱ門山遺跡では、津和野藩・亀井家の江戸中屋敷の瓦も作られていました。

 「寿」の文字が書かれた碗は、生産された窯で見つかりましたので、残念ながら食卓で使用されることはなかったようです。正月のようなハレの日にふさわしい食器ですが、いったい何を盛り付けたのでしょうか。「日本料理は目で食べる」とも言われますが、このうつわは料理を引き立て、きっと食卓を豊かなものにしたことでしょう。

 「寿」の文字が入った有名な落語に「寿限無《じゅげむ》」があります。今年は、おめでたいことがずっと続く「寿(ことぶき)限(り)無(し)」な一年になることを心から願っています。おあとがよろしいようで。