第168話 70年大阪万博に出演した島根の民俗芸能
石山 祥子 専門研究員
(2025年5月28日投稿)
先月13日、「2025年日本国際博覧会」(略称「大阪・関西万博」)が開幕しました。今回の万博開催をきっかけに、55年前に日本初の万博として大阪の千里丘陵で開催された「日本万国博覧会」、いわゆる70年大阪万博にも再び注目が集まっています。
この70年大阪万博への出演により、県西部の民俗芸能・石見神楽の八岐大蛇≪やまたのおろち≫退治が広く知られるようになったことは、すでにご存知の方も多いでしょう。会場内の「お祭り広場」で行われた、日本各地の祭りや芸能が一堂に会したイベント「日本のまつり」第四部(7月28~30日)の中で、石見神楽は一度に11頭もの大蛇が登場する八岐大蛇退治を披露しました。「日本のまつり」出演のために新たに考案された大蛇の頭数の多さを活かした演出は、その後の石見神楽に定着し、現代まで受け継がれています。
70年大阪万博への出演が、その後の芸能のあり方にも影響を与えたという点では、おそらく県内の芸能で石見神楽の右に出るものはありませんが、島根県からは石見神楽以外にも、出雲神楽や安来節など様々な芸能が披露されました。今回は石見神楽とともに島根県から「日本のまつり」に出演したもう一つの芸能である「鼕≪どう≫行列」(松江市)について、本紙の前身である『島根新聞』の当時の記事に触れながらご紹介します。

「鼕」は大太鼓を意味する出雲地方の言葉です。毎年10月第三日曜に開催される鼕行列は、松江市内の町内や団体ごとに鼕を据えた屋根付きの屋台(鼕台・鼕宮)が出され、大人数で鼕を打ち鳴らしながら練り歩くものです。「日本のまつり」に参加したのは横浜町と石橋町三丁目在住者約100名でした。
昭和45年(1970)7月26日付『島根新聞』には「万博へドウを送り出す」という見出しで、鼕の積み込み作業の様子が報じられています。

記事には「直径二メートル近い大太鼓とドウ宮と呼ばれるドウ台を積み込むとあって大仕事。運送会社からは小型クレーン車も出動するという大がかりなもので四時間近くかかって無事積み終わった」とあり、クレーンで吊り上げられた横浜町の鼕宮の写真も添えられています。鼕を送り出した出演者一行は26日夜の臨時列車で大阪に向かいました。
同月30日付『島根新聞』には「どう行列 石見かぐら 豪快 勇壮 暑さ忘れて拍手」の見出しで、「日本のまつり」出演時の様子が伝えられ、太陽の塔を背に鼕宮を曳≪ひ≫く一行の写真が掲載されています。

写真には「関西在住松江出身者の人も参加しての松江のどう行列」と説明文があり、「日本のまつり」が鼕行列を披露する場としてだけでなく、故郷を離れた人たちが郷土の懐かしい文化を久しぶりに体験する機会でもあったことがうかがえるのです。
ということで、今回は石見神楽とともに70年大阪万博に出演した鼕行列について取り上げました。石見神楽は今回の万博でも55頭立ての大蛇退治を6月に披露することをすでに発表しています。55年前、11頭立てで観客に大きなインパクトを残しましたが、今回は観客からどのような反応があるのか、今からとても楽しみです。