いまどき島根の歴史

第22話 平安時代の「合格」

吉松 大志 主任研究員
(2022年3月13日投稿)

 『「サクラサク」―。入学試験の合格を伝える手段は、以前は電報が主流でした。最近では構内の掲示をやめ、インターネット上での合否発表で済ます学校も少なくありません。それでも「合格」の二字に心躍り、また安堵《あんど》する人びとの心持ちに変わりはないでしょう。

 実は平安時代にも「合格」か否かに気をもむ人がいました。当時地方の政治を任されていた貴族、「受領《ずりょう》」たちです。

 受領は4年の任期の間、税の徴収や朝廷への貢納物の納入、国内施設の維持管理など、一国の政治を一任される存在でした。そして任期を終えた受領は、受領功過定《こうかさだめ》という朝廷での成績判定会議をパスしなくては、次のポストにありつけませんでした。この会議では、受領が提出した任期中の職務に関する申告書や、納入された貢納物を朝廷内の各役所が検査した結果など、さまざまな証拠書類が突き合わされ、受領の仕事ぶりについて審査が行われました。

 例えば、出雲国を治めた受領、藤原頼経《よりつね》が治安3年(1023)の受領功過定のために提出した書類に問題があったことが、当時の貴族の日記に記されています。出雲国の国分寺について、既に寺の建物はないはずだが、今回提出された書類では新しく造り直したと記されていました。そこで、過去の資料と照らし合わせて訂正するように指示されています。

 実際に当時の出雲国に国分寺の建物があったかどうかは議論がありますが、ともかく書類上の不備がないかどうかについて、厳密に審査されていたことがうかがえます。

 さて、会議の結果は「定文《さだめぶみ》」という成績判定文書に記録されるのですが、そこに「合格」という文言が記されます。これは「格に合《かな》う」の意味です。格とは古代の法令のことで、受領が任期中に納めるべき朝廷への貢納物などについて定めたものを指します。受領の申告書と役所の検査書類などを突き合わせ、法令通りに納入義務を果たしていれば「合格」とされたのです。

平安時代の朝廷の儀式手順を記した『江家次第《ごうけしだい》』。受領の成績評価として「合格」などと記されています(国文学研究資料館蔵、新日本古典籍データベース掲載写真を加工)

 平安時代には受領功過定と並行して、「除目《じもく》」つまり受領たちの人事異動が行われましたが、これらは旧暦の正月、春の定例行事でした。任期を終えた受領たちはやきもきしながら、成績判定と人事異動の会議の結果を待ち、「合格」すれば次の良いポストを得ることができました。人生の次のステップに進むための「合格」を待つ人びとの姿は、昔も今も春の訪れを告げるまばゆい光景なのです。